夢みる蝶は遊飛する
「大丈夫。あたしガトーショコラにするから」
その言葉に安心した。
けれど、沙世は沙世で別のところに不安を感じているらしい。
「っていうか亜美、お菓子作れるの? 大丈夫なの?」
沙世の脳裏には、クリスマスケーキを作る際の私の様子が思い浮かんだようで、不安そうに眉を寄せている。
失礼な、と言いたかったけれど、自分が一番、自分の腕を信用していないのだから、言い返せるはずもない。
自分の家のキッチンが粉やチョコレートまみれになる光景が浮かんできたけれど、頭を振ってそれを追い払った。
料理だと思うからいけないのだ。
お菓子作りは、肉体労働だと思えばいい。
そう考えれば、スポーツと同じで練習をすればきっとうまくいく。
「大丈夫。練習するから」
余裕そうに見える表情を作って拳を握りしめた私を、沙世は横目で見ながらため息をつき、無言で雑誌のページをめくりはじめた。