夢みる蝶は遊飛する
その時は、沙世はあまりバレンタインに関心がないのだと思っていた。
その受け答えが、あまりに淡白だったからだ。
けれどそれは私の思い違いだったようだ。
「相談があるんだけど、今日の放課後、暇?」
沙世にそう言われたのは、その翌日のことだった。
「今日は部活ないから、大丈夫だよ」
というより、今日は外での活動だから、私は居なくてもよい。
各自でランニングをしたり、外のコートでフォーメーション練習をしたりするだけだからだ。
放課後の約束をし、沙世は自分の席へ戻っていった。
その足取りが、どことなく緊張を帯びたもののように見えた。
そして授業を終え、沙世に連れられるままに歩いていた。
私たちの家がある方とは反対側へ15分ほど行ったところに、この田舎の風景とは不釣り合いな明るい色の外観の建物があった。
それは店の少ないここでは貴重なカフェだった。
角の席に案内され、沙世と向かい合わせて座った。
店員に注文を伝え、その背中を見送ってから、話を切り出した。