夢みる蝶は遊飛する
「俺さ、月刊DUNK愛読してるんだけど、たしか前にそんなような記事読んだなーって思い出して。やっぱそうだったんだ! すっげえ!」
月刊DUNKは、バスケプレイヤーのバイブル的雑誌である。
私も定期購読していた、二年前まで。
そしてその時ようやく、彼が先ほどまで熱心に読んでいた冊子がその本だったことに気がついた。
「なんだっけ、あの特集のタイトル。えっと“真紅のユニフォームに包まれた、魔女たちの熱い闘志!!”みたいなやつ」
そう言えばそんな記事のインタビューも受けたな、と少し懐かしく思った。
「俺、とにかく尊敬してる! 『紅の魔女』は女子だけど、男子にはそういう神みたいなチーム、最近ないからさ。ほんとにすごい! 高橋さんなんで黙ってたの? そうとわかってたら俺さ・・・・・・」
須賀くんが興奮して拳を握りながら熱弁をふるうのを、私はどこか冷めた気持ちで聞いていた。
いくら褒められても、所詮それは過去の栄光。
私が手にするはずだった輝かしい栄光も未来も、もうどこにもないのだ。
手が届いた瞬間に幸せは崩れ去った。
その欠片を拾い集めたけれど、それも指の隙間から零れ落ちてしまった。
風に流され雨に洗われ、もう私にはなにも残っていない。