夢みる蝶は遊飛する
「違う。全然違う、沙世」
子どもに言い聞かせるように、優しく。
ヒロくんは言葉を紡いでいく。
「沙世の、亜美ちゃんへの劣等感を無くさなきゃ意味がないと思ったんだよ、俺は」
劣等感。
それは、あの日、私が沙世から相談を受けた日の彼女の言葉からも感じとれることだった。
沙世は私のようになりたいと言った。
それが、ヒロくんを振り向かせるための純粋な恋心からの言葉だったとしても。
沙世の中には、私と自分を比べてどこか卑屈になっている部分があった。
本当は、どこも劣ってなどいないのに。
私の方が足りないものが多いのに。
私こそ沙世のようになりたいと思っているのに。