夢みる蝶は遊飛する

「俺が亜美ちゃんのことを話に出すたびに、嫌そうな顔をするのはわかってた。それが、亜美ちゃんのことが嫌いだからってわけじゃないことも」


俯く沙世の表情は、長い髪に隠されて見えない。



「俺は沙世が沙世だから好きなだけで、沙世の中身が亜美ちゃんだったとしたら、こんな感情は持たなかった」


私だったら決して言えないような、直球で想いを伝える言葉をさらりと言ってのけたヒロくんに感心する。


そして彼の言葉は一見すると私に恋愛感情を持つことはないと断言していて失礼なようにも思えるけれど、それは違うのだ。

私はヒロくんに友達以上の感情を持つことができない。


なぜなら、私と彼は似ているから。

同じ理由で、彼は先ほどの発言をしたのだ。

自分と同じ種類の人間には、惹かれることはない私たち。


現に、私は彼に対して畏怖に近い感情も持っている。


「だから、亜美ちゃんみたいになりたいとか、今の自分じゃ駄目だなんて思わないでほしかった」


こういう鋭いところに、すべてを見透かされるような気がするから。

私が隠しておきたいことも、秘めていることも、すべて暴かれてしまう気がするから。

< 544 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop