夢みる蝶は遊飛する
沙世の肩が震える。
泣いているのかと思い、その肩に手をかけようとした瞬間。
「バッカじゃないの!?」
瞳をわずかに潤ませた沙世が、真っ赤な顔を勢いよく上げた。
「そんなことのために、あんたたち手を組んでたわけ? 笑っちゃうわよ!
いい? あたしはあたしなの。亜美は亜美。あたしたちは友達なんだから、あたしは亜美に劣等感なんて持ってないわ。勝手に勘違いして、計画どおり、みたいな顔しないでよね」
強がりにしか思えないその言葉でも、今の沙世には精一杯だったのだろう。
彼女の心の中に渦巻く感情を、私がすべて感じとれるわけではないけれど。
沙世がそう言うなら、私はもうなにもすることはない。
共犯者であり協力者であった私の役目は終わったのだ。
「ほら、あと2分でHRはじまるから、教室帰るわよ! こんなとこで話してて遅刻扱いされたら、やってられないんだから」
そう叫んで、短いスカートの裾を翻して走り出した沙世。
その背中を見た私とヒロくんは、一瞬のちに目を見合わせる。
そして、どちらからともなく笑った。
彼の瞳は、これでいいのだと言っていた。
きっと、私のそれも同じように語っているだろう。
弾む背中を追いかけて、走り出した。