夢みる蝶は遊飛する
女王の暗号
寒さも和らぎ、春めいてきた三月下旬。
私はひとつの区切りを迎えようとしていた。
「今日で二年生も終わりね」
ため息の混じった声には、沙世の感情がそのまま表れている。
「そうだね。転校してきてからもう半年だけど、すごく速く時間が過ぎていった気がする」
あの頃の自分を思い出すと、痛々しさに涙が滲みそうになる。
私はすべてを失って、壊れた夢のひとかけらを持って、ここにやってきた。
大事に抱えたそれを守るために張り巡らせた茨は、周りだけでなく自分自身も傷つけていた。
その痛みも厭わずに、ただ過去だけを見つめて生きていた私。
そんな私も、わずかながら変われた気がするのだ。
私を癒したのは、人のあたたかさと、時間の流れ。
悲しみも苦しみも、なくなってはいない。
けれど、大丈夫だ。
澄んだ青空を見上げながら、ちゃんと歩いていけるから。