夢みる蝶は遊飛する
私の隣の席の女子も移動したため、空いたそこに当然のように沙世が座る。
その手に持っているのは、世界史の課題とペンケース、それからスライド式の携帯電話だ。
「最後の最後についてないわね、あの先生も。前の時間に、最後の授業は世界史クイズをやるからってはりきってたのに」
「一番正解数が多かった人には賞品もあるって言ってたし、残念だよね」
「まあ、あたしは自習の方が嬉しいけどね」
課題を机に広げる。
一応勉強をするふりだけしても、口は休めない。
「あの先生、誰だっけ。廊下でたまに見るけど、名前わからないのよね」
「林先生だよ。三年生の世界史を担当してる先生」
以前聞いて覚えていたことを、そのまま沙世に話す。
朝のHR前にぎこちなくなってしまった私の沙世への態度は、どうにかいつも通りに戻すことができている。
「だから世界史の質問だけは受け付けるって言ってたのね。
でも、なんで亜美がそんなこと知ってるの? 関わりあった?」
「終業式のときに、保健室まで連れて行ってくれたのが林先生だったの。その時少し聞いただけだから、その他のことはほとんど知らないけどね」
軽く首を横に振りながら答える。
すると、そこに割り込む声があった。