夢みる蝶は遊飛する
「林秋哉、25歳、授業がわかりやすくて面白いと評判の世界史教師、好きな食べ物は酢豚」
振り向くと、私の後ろの席にヒロくんが座っていた。
「まだ学生の彼女がいて、その人と出会ったのは電車の中」
得意気な笑みで、林先生についての情報を話している。
「どうしてヒロがそんなこと知ってるのよ」
沙世の言葉に、もっともだと私も頷く。
年齢はともかく、好きな食べ物や交際相手のことまで、どうして彼が知っているのだろう。
なにかの教科を担当している教師ならまだしも、私たち二年生には、林先生との接点はない。
「ほら、俺って人脈広いから」
けれど、そうやって微笑まれてしまえば、それ以上は訊くことはできない。
踏み込ませない壁を作ることに関してはきっと、私より彼の方が長けているだろう。
沙世も、不服そうにしながらも深くは追求しなかった。