夢みる蝶は遊飛する
仕方なく、言われた通りに口角を上げて薄ら笑いを浮かべ、指を二本立てる。
どう考えても、うまく笑えているはずがない。
けれどフラッシュが光り、私のそのひきつった笑顔は、写真に焼きつけられてしまった。
一緒に写った男子たちに、なぜか小さな声でお礼を言われ、私も恐縮して頭を下げた。
その男子たちが去ったあとに考えてみると、彼らと話したのはこれが初めてだった。
「亜美ちゃんはたぶん、自分で思ってるよりも、ずっと普通だよ」
ヒロくんだけが、私のそばに残った。
「でも、絶対に他からは侵食されない部分があって、そこがみんなとは決定的に違う」
それは、私がどうしても譲れない、いまだに痛みを訴える傷と隠したい秘密の部分だろうか。
そのことは話していないのに、ときどき彼は驚くほど明確に、私の心の中の想いを言い当てることがある。
「みんなとは違うその部分に、みんなが惹かれるんだ」
私を呼ぶ女子の声がする。
そちらに顔を向けた私の背をそっと押しだしたのは、彼の言葉だった。
「みんな、亜美ちゃんの過去じゃなくて、今の亜美ちゃんを見てるんだよ」
私はあえて振り返らずに、けれどしっかりと頷いて、私を呼ぶ方へ一歩踏み出した。