夢みる蝶は遊飛する
「気持ち悪い」
沙世が眉をひそめて、吐き捨てるように言う。
「悪戯でしょ、ほっとけば? ほら、早く行こう」
私はそれを鞄に入れて、意識から消し去った。
体育館の前で沙世と別れて、桜井くんの姿を探す。
辺りを見回していると、私が探している人物が手洗い場の近くで、靴ひもを結んでいるのを見つけた。
借りていた本を鞄から取り出し、声をかける。
「桜井くん」
「お、亜美ちゃん、その本どうだった?」
それは大ベストセラーになり映画化もされたミステリ小説だった。
「すごく面白かったよ! 続きが気になって寝られなかったくらい」
「俺もそうだった! 途中で話が複雑になって混乱したけど、最後はまさかって感じだった」
その言葉に、何度も大きく頷いた。