夢みる蝶は遊飛する
もともとこの本は、私が貸してほしいと頼んだわけではない。
面白いから是非読んでほしい、と桜井くんが半ば強引に私に押しつけたのだ。
私でも名前くらいは知っている小説だったけれど、そこまで読みたいというわけではなかった。
けれどそこまで言われれば、拒否することはできなかったのだ。
長い外国人の登場人物たちの名前と人間関係に辟易しながらも読み進めていくうちに、完全にその世界の虜になってしまった。
この物語の舞台になった場所に、行きたくてたまらなくなるほどに。
春休みは、読書に時間を使うのもいいかもしれない。
「これ、シリーズの別の本も持ってるから、また今度貸そうか?」
「本当? 読みたいな。あ、これは部室に置いておくね」
そちらも貸してもらうことを約束して、部員たちに声をかけてから私は帰宅した。