夢みる蝶は遊飛する
「それで、どうするの」
そんなことを唸って考えていた私を見かねてか、沙世が話を元に戻した。
ずいぶん話が逸れてしまっていた。
「やらないよ。まだ学校にも慣れてないし、勉強も大変だしね」
適当な理由を述べて、私は曖昧に笑った。
この二週間でだいぶ学校に慣れ、クラス全員の顔と名前は一致するようになったし、校内で迷わなくなった。
編入試験を受けに来たときにがっかりしたほどの校舎の古さも、今では見慣れて気にならない。
たしかに、天井の雨漏りの痕や、壁に走る亀裂に恐怖心を感じることは多々あるけれど。
それに、勉強が大変だとは言っても、前の学校のようについていけないわけではない。
だから慣れていないというのはくだらない言い訳だ。
自分を守るために作った壁の、さらに外側に張る予防線のようなもの。
「ふーん」
デザートのマスカットを咀嚼しながら、沙世は興味がなさそうに頷いていた。
深く聞いてこないことが、ありがたかった。