夢みる蝶は遊飛する
「せんぱいっ! これ食べました? おいしいですよっ」
そう言って駆け寄ってきたのは、後輩の奈々だった。
差し出されたのは、金色の小さな四角い包み。
奈々の手のひらからそれを摘みあげて紙をむくと、チョコレートが入っていた。
奈々の体温で温まり少しやわらかくなったそれを口に放り込むと、ふんわりと溶けてなくなっていった。
「本当、おいしいね。ありがとう」
私の感想を待ってじっとこちらを見上げるその姿は、やはり子犬のようだと思った。
「先輩って、三月生まれなんですね! あたしもなんです」
「そうなの、一緒なんだね」
三月下旬に生まれた私は、同学年の4月や5月に生まれた人と一年近く誕生日が離れているのだ。
そのためか、幼い頃は平均よりもだいぶ身体が小さかった。
今では背が高い方に入るけれど。
「他にもおいしいものがないか探してきますねっ!」
そう言って奈々はまた駆けていった。