夢みる蝶は遊飛する

張り詰めていた空気が歪むと同時に、私は耐えきれずに視線をそらした。


「今は、駄目なの。今はまだ・・・・」


言い訳のように口にしたその言葉は、彼に届いているだろうか。

届いていても、意味は伝わらないかもしれない。


けれど、待っていてだなんて、そんなことは言わない。

少しの時間であっても、私の言葉で彼の心を縛りつけるようなことはしたくなかった。

“言えなかった”のに、あえて“言わなかった”のだと頭の中で弁解している自分が嫌だった。



重すぎる気まずい沈黙に耐えられず、それ以上はなにも言えなかった。

向き合ったまま互いに俯いて、時間だけが流れていく。



彼が出した勇気はどれほどのものだったのだろう。

それが彼の精一杯のものだったということは、痛いくらいに伝わってきた。

けれど、それに応えられない自分がもどかしく、情けなくて。


無責任にも、涙が出そうになった。


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