夢みる蝶は遊飛する

理由が言えないのは、私の小さな自尊心が邪魔をするから。

そしてその理由が、とてつもなく利己的なものだから。


呆れられることを恐れて。

笑われるのが怖くて。

なにも言わないという選択しかできなかった。



鉛のように重い足を動かして、少しだけ彼に歩み寄る。

その表情は、わからない。

硬直したように動かない彼の手から、持ってもらっていた荷物を取る。

そしてまた、三歩分離れた。

その距離が、やけに遠く感じた。



「持ってくれて、ありがとう」


かすれて震えた声は、先ほどまでの出来事がすべて現実であると肯定していた。


「じゃあ、ね」


胸の内側がひどく痛んだ。

けれど、彼を傷つけたのだから仕方ない。



彼に背を向けて歩きだし角を曲がったところで、先ほどまで彼が持っていたクマから微かな体温を感じた。

クマの優しげな顔でさえ私を責めているように見えて、もうなにも見ずに、玄関に駆け込んだ。


これが私の17回目の誕生日の出来事だった。



< 596 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop