夢みる蝶は遊飛する
理由が言えないのは、私の小さな自尊心が邪魔をするから。
そしてその理由が、とてつもなく利己的なものだから。
呆れられることを恐れて。
笑われるのが怖くて。
なにも言わないという選択しかできなかった。
鉛のように重い足を動かして、少しだけ彼に歩み寄る。
その表情は、わからない。
硬直したように動かない彼の手から、持ってもらっていた荷物を取る。
そしてまた、三歩分離れた。
その距離が、やけに遠く感じた。
「持ってくれて、ありがとう」
かすれて震えた声は、先ほどまでの出来事がすべて現実であると肯定していた。
「じゃあ、ね」
胸の内側がひどく痛んだ。
けれど、彼を傷つけたのだから仕方ない。
彼に背を向けて歩きだし角を曲がったところで、先ほどまで彼が持っていたクマから微かな体温を感じた。
クマの優しげな顔でさえ私を責めているように見えて、もうなにも見ずに、玄関に駆け込んだ。
これが私の17回目の誕生日の出来事だった。