夢みる蝶は遊飛する
「おはよ、亜美」
暗い思考が頭を占めて、無意識に俯いてしまった瞬間、沙世の声がした。
「おはよう」
振り向くと、沙世と一緒にいたのは、たぶん同じクラスであろう女子だった。
昨日、教室の中で見た気がする。
その女子にも、同じように挨拶をする。
「おはよう。わたし、大河内(おおかわち)綾音」
「おおかわち・・・?」
「おおこうちって書いてそう読むの」
その説明に、頭の中で読みと漢字を一致させる。
そして、自分は名乗っていないことに気づき、慌てて自己紹介をする。
「あ、高橋亜美です・・・・」
こういったことは苦手で、その後にうまく言葉を繋げることができない。
けれど沈黙が下りる前に、意外なことを言われた。
「知ってるよ、2組の転校生の高橋さん。有名だもん」
「有名・・・?」
そうなるようなことは一切していないのに、どうして。