夢みる蝶は遊飛する

「おい、じゃあどうするんだよ」


その場の重い沈黙を破ったのは、明らかな怒りの感情を含んだ声だった。

空気が一瞬にして変わったのを感じる。

恐る恐る声のした方を見ると、同じ三年生の部員が、煮えたぎるような怒りをその瞳に滲ませていた。

全員の視線がそちらに移る。


「どうするんだよ! お前がいなかったら、俺たちの最後の大会はどうなるんだよ!」


それは稲垣くんを責める言葉。

誰もが思っていて、けれど誰もが口に出せなかったもの。

けれど、言ってしまったのだ。

恐れていた事態を引き起こす言葉を。



「・・・・岡田」


桜井くんが、その名を呼んで小さく首を横に振る。

咎めるような響きではなかったけれど、それだけで十分だった。

そう、私は思ったのだけれど。


「お前のせいで、俺らの最後がめちゃくちゃになるかもしれねえんだぞ。わかってるのかよ!」


それでも、彼を止めることはできなかった。

< 613 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop