夢みる蝶は遊飛する
「おい、じゃあどうするんだよ」
その場の重い沈黙を破ったのは、明らかな怒りの感情を含んだ声だった。
空気が一瞬にして変わったのを感じる。
恐る恐る声のした方を見ると、同じ三年生の部員が、煮えたぎるような怒りをその瞳に滲ませていた。
全員の視線がそちらに移る。
「どうするんだよ! お前がいなかったら、俺たちの最後の大会はどうなるんだよ!」
それは稲垣くんを責める言葉。
誰もが思っていて、けれど誰もが口に出せなかったもの。
けれど、言ってしまったのだ。
恐れていた事態を引き起こす言葉を。
「・・・・岡田」
桜井くんが、その名を呼んで小さく首を横に振る。
咎めるような響きではなかったけれど、それだけで十分だった。
そう、私は思ったのだけれど。
「お前のせいで、俺らの最後がめちゃくちゃになるかもしれねえんだぞ。わかってるのかよ!」
それでも、彼を止めることはできなかった。