夢みる蝶は遊飛する
「失礼します」
独特の匂いと雰囲気。
病院を思い出させるそこは、あまり好きではないけれど。
来る場所は、ここしか思いつかなかった。
この保健室しか。
「あら、こんにちは。また気分が悪いの?」
養護教諭の古居先生は、どうやら私を覚えているらしかった。
あの時の自分の姿を見られていたということに恥ずかしさを感じたけれど、それを気取られないように笑いながら首を振る。
この顔では、様にならないというのはわかっていたけれど。
「・・・・ちょっと、いろいろあって」
「そう。ベッドは使う?」
「いえ、大丈夫です」
薬品の匂いのするこの部屋で、白いシーツにくるまったら、また涙が止まらなくなりそうだった。
先ほどのことや、父の最期の姿、そこに至るまでの過程を思い出してしまいそうで。
記憶を遡っていけば、いつか必ずたどり着くのは、私が夢を失ったあの時だから。