夢みる蝶は遊飛する
パソコンを使っていた先生が、それを閉じて私の斜め向かいに座った。
険しい顔に戻りかけていたのを、慌てて微笑に修正する。
「最近、いい顔してるなって思ってたんだけどな」
先生のその言葉が私を指しているのかどうかは、あえて訊かなくてもわかった。
見透かされていることが気まずくて、無表情を作り俯く。
けれどそれも馬鹿らしく思えてきて、私は先生に質問をぶつけた。
「私の存在に、価値なんてあると思いますか?」
なにも持っていないのに、と付け足す。
私に価値が付与されたのは、バスケができたから。
それを失った今の私はなにも持っていないし、なんの価値もない。
大きなことを言える立場でもない。
わかっていたはずなのに。
心のどこかに残っていた優越感や自尊心は、私の中での自分自身の価値を、いまだに押し上げようとする。