夢みる蝶は遊飛する
「でもね、あなたがいなければもっと困った状況になってた人がいるわ。あなたはそうなるのを防いだ。それって、あなたがいてよかった、あなたの存在に価値があったっていうことになるんじゃないかと思うんだけど」
「もっと困った状況になってた人・・・?」
私がそれを防いだ、とはどういうことなのだろう。
いつ、そんなことをしたというのだろう。
「今日の朝、バスケ部の男の子が保険の書類を取りに来たの、松葉杖をつきながら。話を聞いたら、部活で靭帯を損傷したって。もうすぐ大会なのに出られなくなったって悔しそうにしてた」
稲垣君のことだ、とすぐに気がついた。
彼の気持ちを思うと、また自然と表情が険しくなってしまう。
「でも彼、病院に行って、医者に褒められたんですって」
「褒められた・・・・」
おうむ返しのような私の言葉に、先生が微笑んだ。
「応急手当てが完璧だって。そのおかげで治りが早いだろうって言われたって」