夢みる蝶は遊飛する
振り向くより先に、声をかけられた。
「高橋さん」
そこにいたのは岡田くんだった。
結局、容器をひとつ持ってもらい、ふたりで部員たちのところまで歩く。
歩みが遅いのは、持っているこれが重いからなのか、それとも。
やけに離れた場所でアップをしている部員たちを、少し恨めしく思った。
道のりの半分くらいまで差し掛かったところで、不意に彼が話しはじめた。
「あのさ、この前のことだけど。あれ、本気じゃないっていうか、そんなこと思ったこともないっていうか・・・・。俺、あの時わけがわからなくなってて、めちゃくちゃなこと言ったと思う。稲垣にも、高橋さんにも。それ、すごい後悔してて・・・・」
俯き気味の彼から発せられる声は、必死に絞り出しているようにか細かった。
「高橋さんは、マネージャーとして、女子の方もやってるのに本当にすごいと思うし、っていうか実際すごい人だったんだ・・・・えと、あの、今日もこんな重いの準備してくれてるし、いつもスコアは綺麗だし、あのノートも見せてもらったけど、自分でも気づかなかったような癖とか書かれてて驚いたっていうか・・・・」
さらに小さくなっていく声を、耳で拾うのが大変だ。
独り言の混じった彼の言葉は、私に聞かせるものでもあり、彼自身にも言い聞かせるものでもある気がした。