夢みる蝶は遊飛する

「それより、今日はそんなこと気にしてていい日じゃないでしょう? 岡田くんも早くアップしないと」


そう言って、歩き出すように促した。

彼はスタメンではないけれど、今日の試合に出る可能性は十分にある。

本当なら、こんなところでマネージャーの荷物運びの手伝いをしている場合ではないのだ。


「あのさ、訊いていい?」

「なに?」

「試合中って、なに考えてた?」


思いがけない質問に瞠目する。

それは、私が現役のプレイヤーだった頃の話だろうか。

今の心境を訊かれているはずもないから、そう考えて答えた。


「勝ちたい! って、それだけだよ。勝てると思ってプレイした試合はひとつもない。たくさんあるうちのひとつじゃなくて、ちゃんとその試合だけに向き合わなきゃ意味がないから。技術で負けるより、気持ちで負けた方が悔しいから。
だから、勝ちたいって最後まで思いつづけておくの。どんなに苦しくても、その気持ちだけは忘れたことはなかった」


私の言葉が彼の胸にどう響いたのかはわからない。

けれど、皆がアップしている場所に着き、そこに合流する前に私を振り返ってこう言った。


「今日、俺が試合に出たら、ちゃんと見てて。勝ちたいって思いつづけてるから!」


その言葉に、大きく頷いた。


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