夢みる蝶は遊飛する

岡田くんと入れ替わりで私の近くに来たのは、稲垣くんだった。

松葉杖と、巻かれたギプスが痛々しい。


「なかなか言えなかったけど、俺、高橋さんの手当てのおかげで足の治りが早いだろうって言われたんだ。完璧な応急手当だって。ありがとう」

「そうなの? よかったね」


その話は養護教諭の古居先生からすでに聞いていたけれど、知らないふりをして返事をした。


稲垣くんは今日、アシスタントコーチとしてベンチに入ることになっている。

すでに、その名前を記したメンバー表を本部に提出してある。


「それでさ、ここに書いてほしいんだけど」


そう言って彼が指差したのは、少し汚れたギプスで。

そこにはすでに、たくさんの絵や文字が書かれていた。

正面の一番目立つ位置には『魑魅魍魎』と大きい字で書いてある。


「私もいいの? じゃあこのあたりに・・・・」


彼が差し出したマジックで、早く治るようにと見舞いの言葉を書き記した。



「ん、ありがとう。これで俺、高橋さんの知識も借りて、みんなにアドバイスできそう」


得意気に上腕の筋肉を見せびらかすような仕草をした後、だいぶ慣れた手つきで松葉杖を操って彼は皆の方へ戻っていった。

試合が始まる前からすでに、満たされた気分だった。



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