夢みる蝶は遊飛する


「おいしかったー!」


山田先生が打ち上げとして、男女の部員全員を焼き肉の食べ放題に連れて行ってくれた。

その帰りの暗い道を、舞がスポーツバッグを振りまわしながら歩く。

試合後にあれだけ号泣していた人とは別人のようだ。

けれど、ちゃんと気持ちに区切りをつけられるくらい、彼女は満足したのだろう。



「後味が最悪だけどね」


私の声に不快感が混じっているのは、舞に騙されて、最後にわさび入りの抹茶アイスを食べさせられたせいだ。

甘いのか辛いのか、それとも苦いのかわからない味に驚きつつも、無様な反応は見せまいと笑顔を作り、残りは舞の顎を掴んで強引に口に流し込んだ。

そして大騒ぎした舞のせいで、私が店員から注意を受ける羽目になったけれど。


「あたしもだよ! 口直しに飲んだコーラに、まさかウーロン茶とアイスティーとソースが混ざってるなんて思わなかったし」


あれはひどかった。

飲む前に匂いで気づかない舞も舞だけれど。

その飲み物をブレンドした人は、本気で怒りかけた舞の般若のような顔を見て恐れをなして別のテーブルに移動していた。

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