夢みる蝶は遊飛する
二人で歩きだしてすぐに、私から話を切り出した。
「今日で、終わりなんだよね」
「え? あ、うん・・・・」
彼の言葉の歯切れが悪いのは、私が突然話し始めたからというだけではなさそうだ。
その声に少しの驚きと戸惑いが含まれていることを感じながらも、それでも今日は伝えたいことがあった。
今日でなければ意味がないから。
「私、転校してきたとき、ここではなにもいらないと思ってたの。友達もいらないし、部活とか仲間なんてもう諦めてた。ただ普通に過ごして卒業できればいいって。
でも、気づいたら私はぜんぶ手に入れてた」
夢を失い、父に見捨てられた。
母を亡くし、ここへやってきた。
そして父も亡くなった。
けれど、それだけではない。
普通ではなかった私は、“普通”に憧れていた。
憧れてはいたけれど、実際にはそれも諦めていた。
なんの楽しみもない、心臓を動かし、呼吸をしているだけの普通の日々だけが待っていると思っていた。
けれど私を待ち構えていたのは、かけがえのない日々だった。