夢みる蝶は遊飛する
しかしそこで、私を擁護する人物がいた。
それは、爪磨きに余念がない沙世ではなかった。
「こっちこそ、負ける気がしねえな」
桜井くんを威嚇するように睨んでそう言ったのは、須賀くんだった。
「隼人はまだ、高橋さんの真価をわかってない。俺は、高橋さんの勝利を信じる!」
ぐっと拳を握って、そう言い放った。
もう本当に、黙っていてほしい。
さっきまで桜井くんの手下のように振る舞っていたのに、いきなり私を信じるなんて発言をするその矛盾に、彼は気づいているのだろうか。
しかもそれが私を窮地に追い込むということにも。
「じゃあ決まりだな」
桜井くんはにやりと笑って、須賀くんの胸に握り拳を押しつけた。
私がなにも言わないうちに、その勝負を受けて立つことが決まってしまっていた。
柏木さんも諦めた様子でため息をついている。
残念ね、と隣で沙世が呟く声が聞こえた。