夢みる蝶は遊飛する
「ほんっとーに・・・ごめんっ!」
授業が終わって着替えも済ませ、教室に戻ったところで、須賀くんに平謝りされた。
額が膝についてしまいそうなほど深く頭を下げている彼を見て、クラスメイトたちが不思議そうな顔をしている。
「あ・・・あの、いいから、そんなに頭下げないで」
須賀くんはそれでも唸るような声で謝罪を続けている。
それを面白そうに見ていたヒロくんがそっと近づいてきて、人差し指を一本唇の前に突き立てた。
それを静かに、という合図だと受け取った私が黙っていると、ヒロくんは引き続き頭を下げている須賀くんの背中を思い切り押した。
下に。
「うあぁっっ! いでっ!」
ストレッチのようにふくらはぎの筋肉が限界まで一気に伸びたであろう須賀くんは、崩れ落ちそうになる体を立て直し、ヒロくんに後ろ蹴りを放った。
ヒロくんはほんのわずかに身体を揺らしただけで、見事にそれをよけた。
悔しそうに睨む須賀くんの瞳には、よほど痛かったのだろう、うっすらと涙が浮かんでいる。
「お前っ…俺のアキレス腱、双子にするつもりかよ!」
アキレス腱断裂を“双子”と喩えているのが面白くて、つい笑ってしまった。