夢みる蝶は遊飛する
「高橋さんっ! ごめん今の世界史のノート写させてくれない・・・ですか? あの、いや俺寝てて、っていうか周りもみんな寝てて、誰ひとり完璧にノートとってなくて。でも授業終わる時に先生、今日のところはテストのメインだとか言ってたし」
どうして私が彼の勉強を手伝わされているのだろう。
たしかに、金曜5限の世界史の授業は眠気を誘うかもしれないけれど。
周りがみんなその時間を睡眠に充てていたという事実は、私にとって小さな衝撃だった。
「だめ? 見た感じでは高橋さんしか起きてなかったんだけど」
そう、私の現在の席は一番前、しかも教卓の真正面。
教師と黒板、教科書を見るしかすることがない、なんとも勉強にはうってつけの位置なのだ。
そう思ってはみたものの。
まだ転校して一ヶ月と少ししか経っていない私は、沙世や須賀くん、ヒロくん以外に緊張せずに話せる相手がいない。
もちろん、話しかけられれば友好的な笑みを浮かべて受け答えするけれど。
そんな状況でこの席は、かなり厳しいものがあると思った。
時々、教師とマンツーマンで授業を受けている気になる。