夢みる蝶は遊飛する
「っていうか東京生まれの東京育ちってすごくない? なんか俺らとは雰囲気違うもん。垢抜けてるってやつ?」
生まれも育ちも東京という人間は数えきれないほどいるだろう。
雰囲気だって、決して洗練されているというわけじゃなくて、ただの先入観だろう。
生まれてこのかた、雰囲気だとか性格が明るいと言われたことは一度もない。
きっとそれは、私が生きてきた過程が大きく影響しているのだろうけれど。
「そんなことないよ」
そのあとの言葉が繋がらない。
クラスメイトと雑談なんて久しぶりで、接し方もよくわからない。
私は困惑するばかりだった。
そんな私を見かねたのか、水野沙世ちゃんが言った。
「ね、亜美って呼んでいい? あたしのことは沙世でいいから」
「あ、うん!」
俯きかけていた私がその言葉に顔を上げると、沙世は嬉しそうに笑っていた。
悪意の隠れていないその表情を見て、胸が苦しくなる。
私はこんなに、偽りだらけで生きているのに。
湧き上がる罪悪感は、誰に向けてのものなのか。
その時、スピーカーからチャイムが流れてきた。
それは一限目の始まりの合図だった。