先生とあたし(仮)
「こんばんは、篠塚です…いや、隣りに引っ越してきた篠塚です、だよね」
ブツブツ言葉を呟きながら隣りの322号室の前に立つ。
「大丈夫大丈夫!挨拶なんてちょろい!」
よしっ!!
意気込んでベルを鳴らす。
ピンポーン――
俯いて部屋の住人が顔を覗かせるのを待つ。
緊張のボルテージが上がっていく。
ガチャリ――
「あ、こんば…ん…」
俯かせていた顔を上げて隣人に挨拶をしようとしたんだけど。
「あ…お前、さっき…」
「あ、あんた!!槻嶋脩平!!」
そう。あの、槻嶋脩平だったのだ。
てか――
「ふ、服着なさいよ!!変た…ムグッ」
「うるせえな。風呂上がりなんだよ」
「んーっ!もごっ!!」
手を引っ張られて、玄関に立つ槻嶋のむき出しになった胸板に当たる。
細身なのに意外と筋肉質なんだ……
じゃなくて!!
「っぷは!!ちょっと何すんのよ!!」
「近所の人が何事かと思うだろ。
つーか、なんだお前。俺のストーカーか?」
はあ!?
あんたのストーカー!?
誰が?
あたしが?
「ふざけんじゃないわよ!!
あたしはこれを持ってきただけ!!」
洗剤セットを槻嶋に突きつける。
「あ?何だこれ」
「引っ越しの挨拶!
隣りに引っ越してきたから!」
「…やっぱりお前ストーカー?」
だーかーらー!!
違うって言ってんのがわかんないかなあ?