先生とあたし(仮)
「失礼しまーす、槻嶋先生いらっしゃいますか?」
小さく溜め息をつくあたしをよそに、百合は職員室に足を踏み入れていた。
あとで小言を言われるのも嫌なので、あたしも小さく失礼しまーすとつぶやいてから嫌々入室する。
「おっ、お前らか」
百合の声に反応したのは慎ちゃんだった。
「槻嶋先生なー、ここじゃなくて準備室の方だ」
は?準備室?
頭上にクエスチョンマークを浮かべているあたしのことなどお構い無しに、百合はお礼を言うとさっさと歩き出した。
「ねえ、準備室ってなに?」
職員室を出てから真っ直ぐに2棟に向かって歩く百合の後ろ姿に声をかける。
教室のある新校舎と同時に作られた第2新校舎。
通称2棟。
視聴覚室や会議室、多目的室などがある、普段はあまり使われてないところだ。
「準備室ってこっちにあるの?」
「うん。前に一回質問に来たことあるから」
百合はあたしとは違って英語が大の得意。
あたしなんて先生に質問行ったことないし。
「ハルは頭いいから質問なんて来ないもんね」
自分で言うのもどうかと思うけど、そこそこ頭はいい方だと思う。
授業だけで理解できるし。
まあ、ほんとに英語以外ならなんだけど。
「ていうか、頭がいいとかどうこうの前に英語なんて授業とテスト期間以外で見たくもないよ」
頭がおかしくなっちゃうでしょ。