先生とあたし(仮)

「ちょっと百合!」


なかなか槻嶋から離れようとしない百合の手を今度はあたしが引っ張る番だった。



「…もうっ、先生それじゃあまた明日」



百合を振り替えるあたしを見て、槻嶋の口が薄ら笑いを浮かべるのをあたしは見逃さなかった。




最も百合は気づかなかったみたいだけど。



英語科準備室を出て廊下を早足で歩く。


「ちょっと!何でそんなに速く歩くの?」

「景斗が待ってるかもしれないの!
今日、一緒に帰る約束したし」

「そういえばそうだったわね。
でも、だったらあたしを置いて先に帰ってくれればよかったじゃない。
だいたいハルはねえ……」


また始まったよー。


百合は小言が始まると長いからなあ。



百合の小言がこれ以上長くならないように適度に相槌を打つ。



「おい、どこ行ってたんだよ」


前方から眉根を寄せて唇を少し尖らせた景斗が歩いてきた。

手には自分のカバンの他にあたしの分の荷物まで持っている。


よかった…助かった。

小言がまだ続きそうな百合よりも機嫌の悪そうな景斗の方がまだまし!!



「ごめん!係の仕事で」

胸の前で手を合わせて申し訳ない気持ちを伝える。


「百合ごめん!先行くね!」

「あ!ちょっと!!」

話はまだ終わってない、と後ろから言う百合を放置してあたしは小走りで景斗の元へと急いだ。



今日の夜は百合に謝りのメールをしておこう。

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