先生とあたし(仮)

途中から変だったからちょっと心配したけど、心配して損した!!



トイレから戻ると景斗は何事もなかったかのように、帰る準備をしていた。


「あれ?帰るの?」

「うん、もうすぐ9時になるしな」



あれ、もうそんな時間か。
壁にかけられた時計を見上げる。

長針は9時10分前を指していた。


「明日は部活で遅くなるから…」

「うん、適当に食べるね」


景斗の言葉を全部聞き終える前にあたしが言う。


「部活終わってからでも来るけど?」

「何言ってんの!自分ちの夕飯食べなさい!」


だっていくら何でも部活終了後の疲れてるときに、あたしの料理の指導が頼めるはずがない。

今日だってあんなに手こずらせちゃったのに。


景斗はしばらくずっとあたしを見ていたけど、


「…そうだな」


一言だけそう言うと玄関の方に歩き出した。





「じゃーな、しばらく部活あるけど週2くらいは来るから」

「だーかーらー大丈夫!麻子さんのご飯食べなよ」


あ、麻子さんて景斗のお母さんね。


「俺が来たいの。ダメ?」


小動物みたいな目であたしを見てくる。


景斗ってつくづく自分の使い分けが上手いなーって思うよ。


「…ダメじゃないけど」


しばらく経ってあたしが口を開くと、景斗はフッと笑ってあたしに背を向けて、玄関のドアを開けた。


「寂しかったら電話していいぞ」

「寂しくないし」

「おやすみ」

「気をつけてねー」


最後にニコッと笑うと、景斗の顔がドアの向こうに消えた。

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