先生とあたし(仮)
景斗が帰ってお風呂の支度をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
景斗かな?
忘れ物でもしたのだろうと思って、確認もせずに鍵を開ける。
「何か忘れたー?」
訪問者を確認してから、しまったと思った。
「確認しないで開けてんじゃねーよ」
「何であんたが……」
ドアの向こうに立っていたのは、槻嶋だったのだ。
学校から今帰ってきたのか、教材っぽいものがカバンから覗いている。
「何か用?」
「別に」
別にって…!
「用もないのに来ないで!
あたしの家に誰かいたらどうするつもりなわけ?」
まあ用があっても来るなって感じだけど。
とにかく、いきなりあたしの家にこいつが来るのはいくら何でもおかしい。
そういう仲でもないし。
「用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」
「当たり前でしょ!あんたはうちの学校の先生なんだから。
それに何であたしの家に来るのかって思うでしょ!?」
「隣りに住んでるって正直に言えよ」
隣りに住んでても普通家に来ないだろ。
それにそんなの言えたら苦労しないわ。
あたしは、頭上から見下ろしてくるニヤニヤした槻嶋の目をきつく睨みつける。
「何も悪いことしてねーだろ」
悪いことはしてないかもしれないけど、それを知った人はあることないことで騒ぎ立てると思う。
例え、全くあたしがこいつを好きじゃなかったとしても。
本当に何もなかったとしても。
あたしの家を訪れるような、そんな仲なんだってことは簡単に連想させるだろう。