先生とあたし(仮)
あたしが「らしい」なんて言葉を使うのには理由があるわけで。
「槻嶋先生の授業で居眠りしてる女子って、全校生徒の中でもハルくらいだと思うよ」
そんなこと言われてもねー…。
「だってあの声聞いてると子守唄に聞こえちゃって」
それじゃなくたって聞いててもわからないことだらけだから眠くなっちゃうんだよね。
どうせ聞いてもわかんないなら寝ちゃえとか思っちゃうし。
「だから教えてね、百合ちゃん」
語尾にハートマークが付く勢いで百合に向かって言う。
英語の苦手なあたしにテスト期間中は百合が教えてくれるっていうのは去年からの恒例になってしまっている。
百合は英語がほんとに得意だから。
百合は横目であたしのことをジロっと見ながら、少しため息を漏らす。
「ハルは英語さえできれば学年1も夢じゃないのにね」
「それはないでしょー」
「本気出したら100点とか取るじゃん」
「あはは」
前にも言ったけど、あたしは勉強をそんなにしていなくてもそこそこ点数が取れる。
…英語以外は。
そこら辺はたぶん要領がいいんだと思う。
…英語以外は。
実際、今までのテストで80点以下は取ったことがない。
1回だけちょっと本気を出したテストでは100点を何教科か取ったりしたこともある。
めんどくさいからそんなこともうしないけど。
とにかく英語が破滅的にできないせいで、あたしは何回か追試を経験するはめになったこともほんとの話。
英語はあたしにとっては足手まとい以外の何ものでもない。
「失礼しまーす」
「…失礼しまーす」
もう通いなれてしまった英語科準備室に足を踏み入れる。
デスクに座ってパソコンに目を向けていた槻嶋の視線があたしたち二人に向けられる。
槻嶋の視線があたしは嫌いだし苦手。
見下されているみたいな気持ちになる。
なのになんだか逸らすこともできない。