先生とあたし(仮)
「俺にも食わせろ」
背後で声がしたかと思うと、箸を持ったあたしの手を槻嶋の手が包み込むようにしてうどんを掴む。
「…!!」
すっかり興味がテレビにあったものだから、あたしは咄嗟に槻嶋の手を振り払うことが出来なくて。
「ちょっと……!!」
顔を後ろに向けよう右を向くと、顔のすぐ横に槻嶋の顔があって。
少し伏し目がちになっているせいで長いまつげが影を落としていて、あたしたちの歳にはないような色気が漂っている。
やっぱりイケメンのドアップはいくら景斗で免疫があるとは言っても直視するのは良くないみたい。
あたしは顔が紅潮するのを感じると同時に胸の高鳴りを感じた。
「お、結構美味い」
そう言って優しい顔で笑って、あたしから顔と手を離すとあたしの頭をぐちゃぐちゃにするようになでて、テーブルの上からお皿を取り上げるとまた食べ始めた。
ドクン、ドクン。
ほら、また。
素早く顔を背けて、目をギュッとつぶりうつむく。
どうした!?あたしの心臓!!
必死に抑えようとはするものの、あたしの気持ちとは裏腹に心臓は鼓動を抑えられない。
そうだ。きっとこれはあれだ、英語のテストのせいだ。
普段しない英語の勉強をテスト前だからと言ってしすぎたせいに違いない。
普段やらないことをいきなりやったから、体が異常な反応を示しているだけだ。
「じゃ、俺テストの採点もあるし帰るな」
そう言ってソファーから立ち上がると、ごちそうさま、と一言あたしに投げかけてテーブルに何か置いて出て行った。