先生とあたし(仮)
パタン、と玄関のドアが閉まる音がしてからあたしは顔を上げる。
心臓の音は徐々におさまりつつあった。
ほらね、別に何でもないことなんだよ。
別にどうってことない。
…決して、槻嶋のせいなんかじゃないんだから。
ふと、テーブルの上に1000円札が置いてあるのが目に入った。
槻嶋が置いて行ったものはこれだったんだ。
ごちそうさま
槻嶋の声が思い出される。
たぶんコンビニのオムライスを食べてしまったから、その代金のつもりなんだろう。
「1000円って…これ、多いし」
代金にしては多すぎる額。
「なんなの、あいつ」
もっといい加減なやつかと思ってた。
ちゃんとお礼とか言えるんだ。
槻嶋があたしに向けた優しい笑顔が一瞬浮かんだ。
…なに恋する乙女みたいな思考になってんだろ、自分。
「やっぱり慣れないことはするもんじゃないな」
一言呟くと、もう進みすぎてわからなくなってしまったバラエティー番組を消して焼きうどんの残りを口にし始めた。
ほんのわずかに反応した胸の鼓動を気にしないようにしながら。