旦那様は社長 *②巻*
「30分くらいはかかるから、寝てろよ」
助手席のシートを少し倒しながら、ポンとあたしの頭に手を置く社長。
社長が運転するメルセデスの心地よい揺れは、あたしをすぐに眠りの世界に旅立たせた。
ーーーーーー…
ーーーー…
う…ん……
気がついた時には
病院のベッドの上に寝かされて、腕には点滴の針が刺さっていた。
辺りを見渡すと、そこは広い個室。
まるでホテルのスイートルームのような充実した設備と豪華な家具が置かれていた。
それに…あたしの大好きなベルガモットの香りが部屋中に漂っていて、苦手な薬品の匂いはまったくしない。
有栖川家専用の…お部屋なのかな…?
シーン──…
と静まり返った病室は、物音1つしなかった。
病院なら、廊下をバタバタ歩くナースの足音が聞こえて来てもおかしくないのに。
ーーーーあれ?
「そう言えば…社長は?」
そうだ。何か足りないと思っていたのは、社長の声がまったく聞こえてこないからだ…。
「…もう会社に行っちゃった?」