旦那様は社長 *②巻*
『敬吾…っ…うぅっ…』
もう何も考えられなかった。
どんなに探しても“佐倉敬吾”という人に辿り着けない。
これは悪い夢だ……
そう何度も思った。
初めから“佐倉敬吾”なんて人はいなかったんだ……彼はきっと、あたし自身が作り上げた幻。
そう何度も自分に言い聞かせた。
でも……
あたしの薬指に光るダイヤの指輪が、それを否定する。
彼は確かに……あたしの側にいたんだと。
『…っ、なんで…なんで指輪も…持ってってくれなかったの?』
跡形もなく消えてしまうのなら、この指輪も抜き取ってくれればよかったのにーー…
どうしてこれだけ置いていったの?
プロポーズされたあの日、あたしの指にはめられた時は確かに光り輝いていた指輪。
……あたしたちの未来を象徴しているかのように、キラキラ輝いてた。
でも今ではそれも、絶望の証。
あたしはこの先ずっと、この指輪を見る度に思い出すんだ。
…ーー彼に捨てられた今日の日を。