旦那様は社長 *②巻*
敬吾は、今更あたしに何を言うつもりだろう?
終わらせたのは敬吾。
もうあれからいくつもの季節が通り過ぎた。
それなのに、今更、突然あたしの前に現れておきながら、あの時の話をしたいなんて……勝手すぎる。
塞いだままのあたしの手は、敬吾によって、いとも簡単に解かれた。
そしてあたしの顔を覗き込みながら、「聞きたくないのはどうして?」と、穏やかな声で問いかける。
「どうしてって……そんなの決まってる。もう忘れたこと……過去のことだから」
「光姫にとって既にオレは過去の存在なら、何をそんなに躊躇うわけ?オレが何を言っても、気にすることないだろ?
……お前がそうやって頑なに拒むのは、お前の中でオレが、まだ“過去”だって割り切れてないからじゃないの?」
閉じていた目をゆっくり開くと、すぐ目の前に敬吾の顔があった。
あたしの中で敬吾はまだ……過去じゃない?
敬吾の言葉に、あたしはすぐに反論することができずに黙り込む。
……そんなはずない。
そう、何度も頭の中で自分に言い聞かせた。
でも、敬吾はまだあたしを困惑させ続ける。
「答えられないんだろ?やっぱりお前はオレのこと、心のどこかで引っかかってんだよ。無理やり記憶の片隅に追いやったのかもしれないけど……。だったら尚更、オレの話を聞いてくれ。
……お前だって、モヤモヤした気持ちのまま、幸せになんかなれないだろ?」