旦那様は社長 *②巻*
どういう意味なんだろう?
あたしはハンカチで涙を拭き、ジッと敬吾を見つめた。
「そんな目で見んなよ。相変わらずだな、お前」
「敬吾こそ、何で涙目になってるの?」
やっぱり泣いてた。
敬吾は男のくせに昔から涙腺が弱くて、純愛ラブストーリの映画を観に行った時は、いつだってあたしより先に泣いていた。
人の悲しみも自分のことのように考えて、一緒に泣いてあげられる……優しい人なんだ。
そういうところも、間違いなくあたしが彼を愛した理由の1つ。
「色々思い出したんだよ、あの時のことを。……勝手だけどオレ、光姫との婚約を破棄しても、別れたつもりはなかったんだ。全てが片付いたら、必ずお前を迎えに行こうと思ってた」
「それが……『ごめん』に込められた意味?」
「ああ。でも冷静になって思えば、あんな一言でそんなことまで伝わるわけないんだよな。……バカだよ、オレ。あの一言にはな?こんな気持ちを込めてたんだ。
『今は結婚できないけど、全てが片付いたら必ず迎えにいくから。それまで……待ってて』」
「……っく」
「泣くなよ……」
敬吾が泣かしたんだよ。
今になって、敬吾の深い愛情を知ることになるなんてーー…
「ホント勝手でごめんな。お前を傷つけたことには変わりない。でもオレ、ずっと信じてたんだ。お前は待っててくれるって。苦しくて……何度も電話しそうになったけど、絶対にオレ、お前に甘えるからってグッと我慢してきた。
……でも、全部間違ってたみたいだ。何年も経った今になって気付くなんて、何やってたんだ……オレはっ……」
敬吾が泣いてる……
抱きしめてあげなきゃ。
以前のあたしなら、例えここがレストランの中でも、躊躇いなく敬吾を抱きしめてた。
そっと包んで、髪の毛を撫でて……
「大丈夫。あたしがいるから」って、敬吾が泣き止むまでずっと……。
でも、今はもうそれができない。