旦那様は社長 *②巻*
今のあたしは、あの頃とは違う。
確実に時が流れ、敬吾と過ごした日々は全て思い出になってしまった。
“敬吾を愛する気持ち”は、もう過去のもの。
そして……
今のあたしが愛しているのは、ただ1人。
ーーー…有栖川悠河。
だからもう、泣いてる敬吾をあたしは……抱きしめられない。
抱きしめちゃいけない。
それが分かっているから、あたしも……
涙が止まらないよ。
「……光姫」
「何?」
「オレが今回帰国したのは、お前を迎えに来たからだ」
「あたしを?」
「全てが片付いて、藤堂さんにも目をかけてもらってるおかげで、やっと安定した生活が送れるようになった。これでお前を迎えにいける……今度こそ結婚できると思って帰ってきた。
……光姫、結婚しよう?今度こそ幸せにするから」
そう言うと、敬吾はポケットから小さな箱を取り出した。
聞かなくても、中身が何なのか分かる……
「光姫、答えをくれ」
「……本気で言ってるの?」
「ああ。本気だ。だから光姫も、今の正直な気持ちを聞かせてよ」
「あたし、あたしは……有栖川光姫……だよ」
あたしはもう葉山光姫じゃない。
これが、今のあたしの精一杯の答え。
「ありがとう。光姫」
満足そうに微笑む敬吾が、手のひらの小箱を開けた。
「……あっ」