旦那様は社長 *②巻*

「ならよかった。そういやあ、社長はオレたちのこと知ってんの?」


「知らないはずだよ?」


別に隠しているわけではないんだけど。

今は一緒に働いているわけだから、余計な心配をかけたくないと思って、敬吾のことは悠河に話そうとは思っていない。

悠河はヤキモチ焼きだから、きっと仕事中もあからさまに敬吾を敵視するはずだから。


「……」


「敬吾?何か心配事でもあるの?」


「いや。社長がオレの名前を聞いた途端に顔色変えたのが気になってさ……」


そういえばそんなこともあったっけ……?


「気のせいじゃない?きっと。……きゃっ!!」


「うわっ、大丈夫かよ!?」


ホテルの外に出て、思わず階段を踏み外しそうになったあたしは敬吾の胸に思わず倒れこんだ。


「だ、大丈夫。でも危なかったぁ……」


「妊婦なんだからもっと気をつけろよ?あの社長にオレたちの過去を知られるよりも、光姫と子供に何かあった方がよっぽど怖えーよ」


「あはは、確かに!!」


「バカ。笑い事じゃねーっつの」


敬吾の顔は本当に真っ青になっていて、それがおかしくてたまらなかった。


「じゃあな。気をつけて帰れよ?」


「うん。また会社でよろしくね?」


敬吾はあたしをタクシーに乗せると、姿が見えなくなるまで手を振り続けた。



この時のあたしは幸せな気持ちでいっぱいで。

過去の自分とやっと決別できたことで、明るい未来の光しか見えていなかった。


この先にあるのは幸せだけ。

ーーー…そう信じて疑わなかった。


まさか悠河が、あたしたちのことを……。




神様……


どうかあたしの大切な人を……守ってーー…

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