旦那様は社長 *②巻*

「仕事に私情は……挟めません。それに、今の私にはもう──」


以前とは状況が違う。

もうあたしのお腹には……


「光姫ちゃん」

「……はい」

「光姫ちゃんの代わりは他にいない。今もこれからも、かけがえのない、たった一人の存在だ」

「藤堂さん……。……え?」


悠河があたしの身体をフワリと抱えあげた。


「ゆ、悠河!?」


まさか会社の中に、このまま入るつもりじゃ……


「妻の体調が悪いのに、夫が気遣って何が悪い」


「そ、そういう問題じゃ」


だってここは会社で。

悠河は社長。


社員がこの光景を目にしたら、一体どう思う?


「社長だろうがお前が秘書だろうが、そんなもの今は関係ない」

「関係ある!!」

「部下への示しがつかない……とでも言いたいか?」

「……」


「けっこうじゃないか。オレは社長としての責務は果たしているつもりだ。誰に何を言われる筋合いもない」


悠河はどんどん入り口に向かいながら、真っ直ぐ前を見つめてキッパリと言った。


「妻が今にもぶっ倒れそうだっていうのに、それでも手を差し伸べることが社長として間違いだって言うなら、オレは辞めてやるよ、社長なんて」


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