旦那様は社長 *②巻*
膝の上に乗せた手が小刻みに震える。
おそらくタマコさんも、あたしが流産したことを知っている。
会長と同じ言葉をあたしにかけるのかな……。
さっきまで強気でいられたのに、想定外のタマコさんの登場で冷静に頭が働かなくなった。
そんなあたしを落ち着かせてくれるのは、いつだってこの温かい手。
“大丈夫だから”
そっと優しく包み込まれた悠河の手から、そんな声が聞こえた気がする。
「光姫さん」
「は、はいッ!」
やっぱり緊張しすぎで声が裏返って、目の前のタマコさんがクスクスと笑う。
その作り物とは違う笑顔を見ると、余計に分からなくなる。
タマコさんはこれからあたしたちを責め立てようとしているわけではないの……?
「あ、あのッ」
「この状況に緊張しないでっていう方が無理よね。……すっかり身構えさせてしまったわね、ごめんなさい。悠星があなたたちを傷つけるようなこと言ったから」
「そんな……」
「いいのよ。こんな最低な男、一番傷つけられたあなたが庇う必要なんてないんだから!」
あたしたちに笑顔を向けながら、隣の会長の頭を手のひらでペシッと叩くタマコさん。
今までこの有栖川家にとって、一番“神”的存在なのは会長だと思っていた。
だけど今この場所では、会長の威厳、むしろその存在感すら失われている。
あたしと悠河は置かれているこの状況を理解できず、思わず顔を見合わせた。