旦那様は社長 *②巻*

「会長、頭をあげてください!」


「いいのよ、光姫さん」


「でもッ!」


「これでいいの。とにかくあなたは座って?悠星の話を聞いてやってくれる?」


うっすらと笑みを浮かべ、落ち着いた様子のタマコさん。


きっとタマコさんは、会長がこれから何を言おうとしているのかもう知っているんだ。


「大丈夫。悠星もね、本当はすごく後悔していたの」


「え?」


「これから先は私が言ったって意味がないわよね。ほら、悠星が土下座する姿なんて滅多に見られないわよ?悠星は人に謝るなんてこと、今まで数えるくらいしかしたことないんだから」


それでも立ち尽くしたままのあたしの腕を引っ張って、悠河は無理矢理あたしを椅子に座らせた。


今この空間でオロオロしているのはあたしだけ。


悠河もタマコさんも、静かに会長を見下ろしている。


なぜか耐え切れなくなったあたしは、一人心臓をドクドクと震わせながらギュッと目を閉じた。


耳に届くのは、「光姫さん、すまなかった」と何度も何度も言葉にする会長の声。


『あ……』


こうして視界を閉ざして耳だけを澄ましていると、会長の本音が見えてくる。


“すまない”


この言葉が、会長の本心だと思える。


なんでもない普通の言葉だけれど、会長の震える声や、壊れた人形のように何度も繰り返される“すまない”が、じんわりと少しずつあたしの胸の奥に届いて、蛍のように小さな灯りをポッとともした。


< 388 / 409 >

この作品をシェア

pagetop