旦那様は社長 *②巻*
「会長、頭をあげてください!」
「いいのよ、光姫さん」
「でもッ!」
「これでいいの。とにかくあなたは座って?悠星の話を聞いてやってくれる?」
うっすらと笑みを浮かべ、落ち着いた様子のタマコさん。
きっとタマコさんは、会長がこれから何を言おうとしているのかもう知っているんだ。
「大丈夫。悠星もね、本当はすごく後悔していたの」
「え?」
「これから先は私が言ったって意味がないわよね。ほら、悠星が土下座する姿なんて滅多に見られないわよ?悠星は人に謝るなんてこと、今まで数えるくらいしかしたことないんだから」
それでも立ち尽くしたままのあたしの腕を引っ張って、悠河は無理矢理あたしを椅子に座らせた。
今この空間でオロオロしているのはあたしだけ。
悠河もタマコさんも、静かに会長を見下ろしている。
なぜか耐え切れなくなったあたしは、一人心臓をドクドクと震わせながらギュッと目を閉じた。
耳に届くのは、「光姫さん、すまなかった」と何度も何度も言葉にする会長の声。
『あ……』
こうして視界を閉ざして耳だけを澄ましていると、会長の本音が見えてくる。
“すまない”
この言葉が、会長の本心だと思える。
なんでもない普通の言葉だけれど、会長の震える声や、壊れた人形のように何度も繰り返される“すまない”が、じんわりと少しずつあたしの胸の奥に届いて、蛍のように小さな灯りをポッとともした。