旦那様は社長 *②巻*
涙が自然と零れてきた。
悲しいというより、無意識のうちに溢れた涙が頬を伝う。
「私は悲しかったんだ。私が曾孫をほしがっているのは周知の事実。それを一番知るはずの悠河と光姫さんが、子供ができたことを隠していた。……それが本当に悲しかったんじゃ」
子供ができたことをとても喜んでいた悠河が、会長にそのことを報告しようとしていた時、あたしがそれを引き止めたことは間違っていたのかな……。
それは、必要以上に周囲に騒いでほしくなかったから。
余計なストレスを身体にかけないようにすることが、自分とお腹の子供を守ることに繋がるんだと信じていたから。
だけど、あたしたちの運命は最悪な結末を迎えてしまった。
どうすればよかったんだろう。
どうすれば……。
今となっては、誰もこの答えが分からない。
何が引き金となって人の人生を狂わせてしまうのか。
「分かっているよ。今回ばかりはきっと誰にもどうしようもなかったアクシデントだと。分かっているんだ……。けど、もしかすると私たちが運命を変えられたかもしれない。命を、救ってやれたかもしれない。……そう思うと、胸が張り裂けそうで、悔しくて堪らなくて。……どこにぶつければいいのか分からない感情の塊が、あの日光姫さんに向かって爆発してしまった。……本当に申し訳ない」
あたしは声を出せなくて、頭を左右に振ることしかできなかった。
「だけど分かってほしい。私は光姫さんが憎いわけじゃない。あの時は我を失ってしまったけれど、……大切な孫の悠河と光姫さんの子供が、可愛いくないわけがない。例えこの老いぼれの命と引き換えにしても、……守ってやりたかった」
「か…い……ちょう……」
人は不思議だ。
悲しくて悲しくてしかたないはずなのに。
こんなにも涙で顔もボロボロになっているのに。
今、心がとても温かい。
そして自然と顔が、笑顔になる。
それはきっと、“愛”に触れたから……。