旦那様は社長 *②巻*
だけどあたしは分かってほしいから。
悠河の本音は、会長の期待に応えたいと思っていることを。
「彼は、有栖川の今と未来をとても案じています。そして、会長とタマコさんのこともとても大切に思っています。……だって、お二人は彼にとって、唯一の肉親なんですから」
幼い頃に両親を亡くしてしまった悠河にとって、会長とタマコさんしか身内はいない。
会長がどんなに無理難題を押し付けてきたとしても、どんなに疎ましく思っていたとしても、やっぱり会長の存在は悠河にとって必要不可欠だから。
「それに悠河は、お二人のことを本当に尊敬しています。感謝もしています。今の彼があるのは、お二人のおかげだから。だから本当は、会長に逆らうようなことなんて望んではいないんです。会長がおっしゃることなら、彼は必ず結果に出したいと思っているはずです」
ずっと前から気付いていた。
悠河が会長命令に絶対服従なのは、単に有栖川グループを手に入れるためじゃないってこと。
“あのジジイ”なんてよく口にしていたけれど、会長は悠河にとって祖父でもあり、父親でもある。
そんな偉大な人の期待に応えたいと思うのは、とても自然な流れだと思う。
それに会長だって、高齢の身でありながらも、こうして有栖川グループを一生懸命守ってきたのは、きっと他でもない悠河のため。
本当なら自分の息子夫婦に有栖川グループを委ねて、タマコさんと2人でのんびり老後を楽しんでいるはずだったのに。
自分たちがいなくなったら、本当に悠河は一人ぼっちになってしまうから。
悠河を守るため、必死で会社を大きくしたに違いない。
圧倒的な権力を保持し続けるのも簡単ではなかったと思う。
そう考えると、あたしも会長やタマコさんに感謝せずにはいられなかった。
「ありがとうございます。会長、タマコさん。彼を今まで守ってくださって、本当にありがとうございます」