旦那様は社長 *②巻*
「光姫さん……」
タマコさんが目頭をそっと押さえて、声を震わせながらも笑みを浮かべた。
「ありがとう、光姫さん。ありがとう」
会長も目が少し潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいじゃない。
あたしの隣では、悠河が小さく鼻をすする音が聞こえる。
なんだかあたしまでこの場の雰囲気に流されて泣きそうになってしまったけれど、まだ大切なことを伝えていないから、泣くのは後にしようと大きく深呼吸をした。
「会長。今回のことは、彼に何の落ち度もありません。彼は会長との約束を破っていません。確かに、私のお腹に新しい命があったんです。それを守れなかったのは私……。だからお願いします!彼に有栖川の未来を……!彼は悪くないんです!!」
「お願いします」と何度も頭を下げるあたしに言葉をかけたのは、会長ではなくタマコさんだった。
「安心したわ」
「え?」
「あなたたち、本当にいい夫婦になったのね」
あたしと悠河を見比べながらとても幸せそうに笑うタマコさん。
本当に……?
本当にあたしたちは、ちゃんと夫婦になれたのかな。
“いい夫婦”かどうかなんて、あたしたちには分からないから。
「昔の悠河には考えられないことよ。相手の女性を思いやることなんて」
「た、タマコさん……」
悠河が頬をほんのり赤く染めて、「それくらいにして下さい」と気まずそうに訴えている。